平成22年(2010年)綱領の解説
―我々は進歩を目指す日本の保守政党―
政権構想会議座長  伊 吹 文 明

― 日本らしい保守主義を理念に再出発

(1) 綱領とは何か
 我が党は総選挙になぜ負けたのか。大企業病と同じで、長く与党でいた組織の老化と新しい商品企画、即ち政策と党運営、特に総裁選びを落ち着いた、しかし新しい視点を合わせもって行いえず、国民の期待に応えきれていなかったオウンゴールと、民主党の「子ども手当」等の壮大なばらまきの二つが主な原因でしょう。そこで、谷垣新総裁は我が党の基本的問題を根本から考え直すため、政権奪回を目指して政権構想会議を立ち上げました。
 私が座長を務め、第1次勧告は公認候補者の選定等党運営の問題、第2次勧告は党の基本理念について勧告しました。この第2次勧告を受け、我が党の綱領を作り直す作業に入り、党大会で新綱領は満場一致で決定されました。
 綱領はいわば政党の憲法です。憲法があるから、具体的な法律や予算ができあがり、行政が執行され、日常生活が動きます。それと同じように、新綱領の精神を基本に執行部が的確な党運営をし、党員がその基本的考えを共有して選挙を勝ち抜くことが大切です。新綱領は我が党が野党の時だけのものではありません。政権を奪還しても、この考えでやっていける綱領でありたいとの思いで作成しました。

(2) 日本の現状認識
 新綱領は現状認識、党の基本的性格、政策の基本的考え、目指すべき国家像の四部構成となっています。
 現状認識は次のようなものです。昭和30年の立党の背景は、当時ソ連を中心とした共産主義勢力の力が強く、東西対決と言われました。国内では、左右に分かれていた社会党が合同し、東陣営の先兵になるのではとの危機感から、「反共産・社会主義、反独裁・統制的統治」と「日本らしい日本」をもう一度取り戻すという二つの目的で、自由と民主を共に標榜する当時の自由党と民主党が合同し、自由民主党が誕生したのです。
 その後、ソ連が崩壊しましたから、立党の目的の一つは達成されたと思います。しかし、現在の民主党を見てください。民主党は、皆で創り出した国民総生産を与党のみの独善的判断で、高所得者にまで「子ども手当」を、米作農家に生産費補償費をばらまき、国民生活に政府が関与する政策をとっています。これを恒常的にやると、人間は弱いものですから、自立と自助の心根がなくなります。家計へのおかねの分配を政府が決めていく社会主義の下では、豊かな国民生活をつくりあげることができなかったのが歴史の証明です。
 そして、選挙に勝ったら、俺の言うことを聞かなければ陳情を聞いてやらない。意に反することをやれば締めあげる。これは、権力の私物化・独裁です。我が党は、このような国家社会主義的統治とも闘っていかなければなりません。多様な意見を謙虚に聞き、民主主義を「壊れ物」のように大切に運用していく気持ちが必要なのです。

(3) 経済大国の結果失った大切なもの
 我が党は、今日まで日米安全保障条約を基本に平和を維持し、国民とともに、日本を世界第二の経済大国につくりあげてきました。しかし、立派な国をつくりあげ、その結果として長寿国になったがゆえに、豊かさのなかで自立心や勤勉さが失われ、労働力の高齢化と減少により生産力が低下しています。また、社会保障費は増え、経済も財政も難しい局面に遭遇しています。同時に、国際化が進んだことで異文化との接触も増え、私たちが大切にし、誇りとしてきた伝統的な生き方・心根も変わってきています。
 日本人が大切にしてきた自助自立の心。頑張れない人は、ご近所や家族の中で助けあった生き方。儲けたお金で成金のようなことをしない、質素に暮らす心根。それが日本人だったのです。日本が大切にしてきた生きざま、即ち日本の文化を、もう一度取り戻さなければなりません。武士道、土に根ざした勤勉さ、匠の心、商人道等々、今一度、先人の教えを読み返してみたいものです。
 立党以来、護り続けてきた自由と民主の旗の下に、時代に適さぬものを改め、維持すべきものを護り、秩序のなかに進歩を求め、国際的責務を果たす日本らしい日本の保守主義を政治理念として、我が党は再出発したいと思います。
 そうしたことを新綱領のなかで現状認識としてしっかりと確認しています。
 

二 党運営と政策の基本的考え方

(1) 国家社会主義的政治と闘う
 以上のような現状認識の上に、我が党は、常に進歩を目指す保守政党として、新たな出発をすることを綱領では名言しています。
 自由民主党から「自由」をとった民主党の党運営の現状を見るにつけ、我が党の政治姿勢、即ち、勇気を持って自由闊達に真実を語り、協議し、決断すればそれに従う党の良き伝統を再確認しましょう。また、国会を公正に運営し、政府を謙虚に機能させる姿勢を基本としました。「小沢独裁」と呼ばれる民主党のような政治手法はとらないことを党の基本姿勢としています。

(2) 憲法改正で日本らしい日本を
 我が党の基本的な政策の第一は、まず党是である憲法改正を通じ、日本らしい日本の姿を示し、世界に貢献できる国のかたちの基本を明確にすることです。日本の主権を自らの努力により護り、国際的責務を果たし、一国平和主義的観念論をとらないことも同時にうたいました。
 
(3) 品性ある国民による活力ある社会
 自助自立する個人を尊重し、共助・公助の助け合いの仕組み・社会保障を充実させるのは、自由主義を前提とする「保守政党」としては当たり前のことです。
 また、国の基本は国民、人であるだけに、地域社会の絆や家族の和を、しつけや教育の中でしっかり身につけていかなければなりません。地域社会と家族の絆・温かさの再生は我が党政策の基本です。
 資本主義経済でなければ、経済が発展しないことは歴史が証明しています。しかし、資本主義経済はそれを動かす人間の自己抑制がなくなると、誠に醜い拝金主義経済に陥ります。額に汗せず、お金を右から左に動かして儲ける人が偉いわけではありません。下請けいじめの利益は立派なことではありません。自律と秩序ある市場経済の確立がわが党の基本です。
 ヒュー・セシルという学者が『保守主義とは何か』のなかで、保守主義は必ずしも政府の介入を排除するものではない。しかし、全ての人に同じような効果を持つ政策でなければならない。一部の選ばれた人が形成する政府の独断で、一部の人を優遇し、競争条件を不平等にする政策を採るのは、保守主義本来のあり方に反すると述べています。従って政府は、成長戦略や食糧安全保障、環境保全、皆保険制度の充実、教育等のように、全ての人に公正な政策や条件づくりに努め、一部の人たちだけへのばらまきはしないということを明記しています。
 
(4) 今の票を得るために後世に借金を残さない
 何よりも大切なことは財産再建です。民主党は、「子ども手当」を支給する、高校の授業料を無償にする。その他多くのことを総選挙で約束しました。財源は予算の無駄を削れば出てくると言っていましたが、マニフェストで示した平成22年度分である約7兆円の公約の財源を削減ではじき出せず、結局約2兆円の削減しかできませんでした。何故なら、何が必要で何が不必要かは、人それぞれの立場で違うからです。この違いを、現実を混乱させず調整するのが、政治の大切な役割のはずです。民主党の仕分け人の独断的仕分けショーは、映像では面白く取りあげられましたが、多くの反対が沸きあがったのも当然のことでしょう。結局、暫定税率廃止の不実行等の約束破りと借金や埋蔵金さがしで、公約の一部だけをやっと実現したにすぎません。
 借金つまり国債発行は、総選挙の時に投票権がなかった将来の有権者が将来働いて、額に汗して納めた税金を、民主党が現在の有権者の歓心を買う資金に充てたということです。世代間の倫理観の喪失とでもいえましょう。
 だから、財政は必ず再建しなければならない。確かに、我が党政権下で、国債残高は積み上がりました。しかし、我々はこのままではいけないとの決断で、景気を回復させ、社会保障財源に充てるために、消費税を含む税制改正の実施を先の総選挙の公約に掲げていました。新綱領でも将来の納税者の汗の結晶の使用選択権を奪わぬよう、財政の効率化と税制改正により財政を再建することを掲げています。
 

三 党自民党の目指す国家像

(1) 誇り・活力・絆・公正。進歩する日本
 これまで述べてきた「現状認識」を前提に、我が党が「党の性格と党風」を大切に党運営を行い、「党の政策の基本的考え方」に基づいて政策を企画・立案・実施できれば、どのような日本になるのかを述べたのが、「我が党は誇りと活力ある日本像を目指す」です。自民党の国家ビジョン・理想とする国家像です。
1. 家族、地域社会、国の一員であるという帰属意識をしっかりと持って、まず、一人ひとりの国民が自立し、地域が特色を発揮する。しかし、努力しても無理な人たちはお互いに温かく助け合っていく国民・地域社会がある。
2. 美しい自然と温かい人間関係の下で、その国民は、家族、地域社会の中で「和と絆」を大切にして、日々を暮らす。
3. 政府と自治体は、独断専行ではなく、合意形成を怠らず民主的に運営される。
4. 努力するものが報われ、努力する機会と能力に恵まれぬものを皆で支えていく。その条件は政府がつくる。
5. 全ての人に公正な政策を実行する政府。一部の団体、地域、人たちに皆の負担をばらまく政策はやらない。次の世代が納める税金を、今の世代が勝手に使い道を決めてしまうような国債発行依存の財政からの脱却に努力する。
 立党50年時の綱領にある「小さな政府を」という考え方・精神は変わっていませんが、「小さな」、「大きな」の基準が何なのかは、人口構成、国内総生産(GDP)の大きさにより変わってくるので、むしろ不必要なことをしない政府という感覚でしょうか。
6. 世界平和への責務・義務を果たし、人類共通の価値観に貢献し、世界から敬愛される有徳の国・日本を目指す。

 1〜6に一貫して流れる政治理念は、私たちが大切にし、誇りにしてきた日本人の生き方、「自立、和と絆、公聴心」を保守し、長寿少子化社会でも温かく生き甲斐のある日本社会に進化するということです。
 
(2) 綱領は政党の命
 この綱領で民主党とどこが違うのか、との質問が出ます。我が党と民主党との最大の違いは、綱領があるかないかです。
 民主党には、昔の社会党綱領の下で議員をやっていた人が、閣僚席に現在数人座っています。この方々は、社会主義を捨てて、民主党に参加したのでしょうか。また、我が党の中で、ポストに就けない、権力闘争に敗れたからといって出ていった人も多い。市民の目先の生活で、国より個人だという市民運動家の方もいる。民主党は、綱領がないというよりも、こうした人たちの混合政党であるから、政策を判断する共通の理念を統一できない。その結果として、当面の選挙対策的場当たり政策がまかり通るのが残念な現実です。共産党は共産主義で統一をされている。社民党の性格は変わってきたけれども、最終的には社会主義的なものへ移っていくことが書かれています。ところが、民主党には綱領がありません。選挙が不利だから離党する、大臣になりたいから他党にいくなどいう政治家が集まる政党では、綱領が持てないのは当然です。綱領を共有するから同志が集まり、党があるのです。政治理念ではなく、当面の損得で離散集合をする政治家は、必ずや後世の批判を受けるでしょう。政治家である前に、節義ある人間として、我々もまた心すべき点です。
 
(3) 新綱領で何が変わったのか
 次に、この新綱領で何が変わったのかという質問が出ます。一言でいえば経済が大きくなり、国民生活が向上し、国際化が進み、長寿化を達成し、少子化が避けがたい日本国の現状、変化を見据え、如何なる政治理念で我が党は国民に貢献できるか、現時点での基本方針を述べたのが大きく変わった点です。今までの綱領の増補という位置付けといっても良いでしょう。今までの綱領の精神を受け継ぎ、時代に合わぬところを補い、未来に備えたと理解してほしいと思います。

(4) 執行部は勇気を持って政権奪還
 谷垣総裁はじめ執行部には新綱領に従って、今後毅然として党運営を行うことを望みます。幹事長は綱領の精神で党運営にあたる。政調会長はこの基本で全ての政策を取捨選択する。全党員がこの綱領の下で一致協力し、苦しくても我慢して各々が持ち場で努力する。その雰囲気をつくり、最後の責任をとるのが総裁です。そうすれば、我が党への良識ある国民の信頼は必ず回復し、政権奪還を達成できます。
 さあ、新しい気持ちで、皆で心を一つに、そして再出発しましょう。

平成22年(2010年)綱領
平成22年1月24日

現 状 認 識
 我が党は、「反共産・社会主義、反独裁・統制的統治」と「日本らしい日本の確立」一の二つを目的とし、「政治は国民のもの」との原点に立ち立党された。平成元年のベルリンの壁の崩壊、平成三年のソ連邦の解体は、この目的の一つが達成されたという意味で、我が党の勝利でもあった。そこに至るまでの間、共産主義・社会主義政党の批判のための批判に耐え、我が党は現実を直視し、日米安全保障条約を基本とする外交政策により永く平和を護り、世界第二の経済大国へと日本を国民とともに発展させた。
 日本の存在感が増すにつれ、国際化のなかで我々は多くのものを得た反面、独自の伝統・文化を失いつつある。長寿国という誇るべき成果の反面、経済成長の鈍化と財政悪化からくる財政諸機能の不全に現在も我々は苦しんでいる。少子化による人口減少は国の生産力を低下させると言われる。我が国は、これ等の現実を明るく希望ある未来に変えるため、少子化対策とともに、教育の充実と科学技術開発に国民資源を注力することにより生産性を向上させ、長寿人口の活用と国民資質の向上、国際化への良き対応により、経済成長が達成でき、国民生活の充実が可能なことを世界に示さねばならない。
 我々は、日本国及び国民統合の象徴である天皇陛下のもと、今日の平和な日本を築きあげてきた。我々は元来、勤勉を美徳とし、他人に頼らず自立を誇りとする国民である。努力する機会や能力に恵まれぬ人たちを温かく包み込む家族や地域社会の絆を持った国民である。家族、地域社会、国への帰属意識を持ち、公への貢献と義務を誇りを持って果たす国民でもある。これ等の伝統的な国民性、生きざま即ち日本の文化を築きあげた風土、人々の営み、現在・未来を含む三世代の基をなす祖先への尊敬の念を持つ生き方の再評価こそが、もう一つの立党目的、即ち「日本らしい日本の確立」である。
 我が党は平成二十一年総選挙の敗北の反省のうえに、立党以来護り続けてきた自由と民主の旗の下に、時代に適さぬもののみを改め、維持すべきものを護り、秩序のなかに進歩を求め、国際的責務を果たす日本らしい日本の保守主義を政治理念として再出発したいと思う。我々が護り続けてきた自由(リベラルズム)とは、市場原理主義でもなく、無原則な政府介入是認主義でもない。ましてや利己主義を放任する文化でもない。自立した個人の義務と創意工夫、自由な選択、他への尊重と寛容、共助の精神からなる自由であることを再確認したい。従って、我々は、全国民の努力により生み出された国民総生産を、与党のみの独善的判断で国民生活に再配分し、結果として国民の自立心を損なう社会主義的政策は採らない。これと併せて、政治主義という言葉で意に反する意見を無視し、与党のみの判断を他に独裁的に押し付ける国家社会主義的統治とも断固対峙しなければならない。また、日本の主権を危うくし、「日本らしい日本」を損なう政策に対し闘わねばならない。我が党は過去、現在、未来の真面目に努力した、また努力する自立した納税者の立場に立ち、「新しい日本」を目指して、新しい自民党として、国民とともに安心感のある政治を通じ、現在と未来を安心できるものとしたい。  

一、我が党は常に進歩を目指す保守政党である
(1)正しい自由主義と民主制の下に、時代に適さぬものを改め、維持すべきものを護り、秩序のなかに進歩を求める
(2)勇気を持って自由闊達に真実を語り、協議し、決断する
(3)多様な組織と対話・調整し、国会を公正に運営し、政府を謙虚に機能させる

二、我が党の政策の基本的考えは次による
(1)日本らしい日本の姿を示し、世界に貢献できる新憲法の制定を目指す
(2)日本の主権は自らの努力により護る。国際社会の現実に即した責務を果たすとともに、一国平和主義的観念論を排す
(3)自助自立する個人を尊重し、その条件を整えるとともに、共助・公助する仕組を充実する
(4)自津と秩序ある市場経済を確立する
(5)地域社会と家族の絆・温かさを再生する
(6)政府は全ての人に公正な政策や条件づくりに努める
(イ)法的秩序の維持 (ロ)外交・安全保障
(ハ)成長戦略と雇用対策 (ニ)教育と科学技術・研究開発
(ホ)環境保全 (へ)社会保障等のセーフティネット
(7)将来の納税者の汗の結晶の使用選択権を奪わぬよう、財政の効率化と税制改正により財政を再建する

三、我が党は誇りと活力ある日本像を目指す
(1)家族、地域社会、国への帰属意識を持ち、自立し、共助する国民
(2)美しい自然、温かい人間関係、「和と絆」の暮し
(3)合意形成を怠らぬ民主制で意思決定される国と自治体
(4)努力するものが報われ、努力する機会と能力に恵まれぬものを皆で支える社会。その条件整備に力を注ぐ政府
(5)全ての人に公正な政策を実行する政府。次世代の意思決定を損なわぬよう、国債残高の減額に努める
(6)世界平和への義務を果たし、人類共通の価値に貢献する有徳の日本




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